南走平家をご存じだろうか。源平合戦に敗れた平家の一部が海を越えて沖縄へと落ち延び、壇ノ浦の戦いの2年後、1187年に「舜天(しゅんてん)王統」を築いた―とする説である。
■平家の渡海伝説
舜天王統は沖縄で最初の王国とされる。ただし本当に実在したのか定かではなく、信憑(しんぴょう)性の高い説とはいえない。
もっとも、平家が海を越えたというのは荒唐無稽な話でもなさそうだ。源平合戦が終わった頃から、沖縄の文化が飛躍的に進化したからである。
11世紀までの沖縄は貝塚時代で、竪穴式住居の集落が点在する人口数万の島だった。ところが12世紀前後から堅固なグスク(城)が次々につくられる。人々の生活も漁労・採集中心から農耕へと変わった。
社会生活が急変した理由は謎だが、源氏に追われる平家がいたならグスクも農耕も説明できよう。実際、沖縄には「平」のつく地名が不思議と多い。平家の落人が沖縄に土着したと考える識者は今も複数いる。
ロマンのある話じゃないか。沖縄の人々が平家の血を引いているなんて…。
沖縄にはもう一つ、源為朝の子が王統を築いたとする説があり、琉球王国が正史に書き込んだため平家にまつわる伝承がことごとく封印されたとされる。史実かどうかはともかく、この分野の研究が進むことを期待したい。
だが近年、沖縄をめぐり、ロマンのかけらもない珍説が出てきたから困ったものである。
■沖縄は「先住民族」?
珍説を唱えたのは国連だ。2008年10月、国連の自由権規約委員会が日本政府に対し、「沖縄の人々を先住民族として認めよ」と勧告した。
沖縄県民は普通の日本人ではなく、政府が保護すべき「先住民族」であるから、土地などを侵害してはならない―とする内容である。
いやいや普通の日本人ですよ―と、政府が否定したのは言うまでもない。すると10年から18年にかけ、同委員会や人種差別撤廃委員会が同様の勧告を4回も出した。
そもそも先住民族とは何か。
国連広報センターによれば、「世界のもっとも不利な立場に置かれているグループの一つ」であり、多くは「政策決定プロセスから除外され、ぎりぎりの生活を強いられ、搾取され、社会に強制的に同化させられてきた」人々と定義される。
加えて「自分の権利を主張すると弾圧、拷問、殺害の対象となった」とも。
仰天したのは当の沖縄県民だろう。自分を先住民族だと思う県民などほとんどおらず、県議会で議論されたこともないからだ。勝手に決めつけるなと、昨年11月には複数の市町村議員が議連を立ち上げ、国連勧告の撤回を求める運動も始まった。
この勧告の問題点については那覇市出身のジャーナリスト、仲村覚氏が近著「狙われた沖縄」で論証しているのでそちらに譲ろう。南走平家を持ち出すまでもなく、沖縄県民はDNA解析からも遺伝的に日本人であり、沖縄の方言には古い大和言葉が多数残っている。
■ほくそ笑む隣国
問題は、いったい誰が、何の目的で、こんな珍説を国連に吹き込んだかだ。
昨年11月の地元紙に、国連勧告を支持する琉球大教授のコメントが掲載されていた。
「沖縄の自己決定権を認めれば、日本政府は(沖縄に)集中させている基地を維持できなくなる」
国政選挙という民主的プロセスではなく、国連という外圧によって、米軍基地をなくそうということなのか。
だが、この勧告にほくそ笑んでいる隣の大国の存在を忘れてはなるまい。
ちなみに中国は、もともと沖縄は日本ではなく、中国(明(みん))の藩属国だったという立場だ。もしも沖縄が日本から分離されれば、間違いなく中国に組み込まれ、県民は「先住民族」としてウイグル族と同じ扱いを受ける…。
おっと、正月の鏡開きもしていないのに、ロマンのない話はもうよそう。
沖縄は今年、祖国日本に復帰して50年の節目を迎える。基地問題をはじめ未解決の課題は多いが、次の50年までには、総理大臣も誕生するだろうと期待したい。
国に保護されるのではなく、リーダーとして国を引っ張る、平家の棟梁(とうりょう)のような人材が…。(かわせ ひろゆき)
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